全うの意向

陛下 務め全うの意向

             2018年4月30日付朝日新聞大阪本社版1面の見出し

 

 

この場合、「全う」は「やり遂げること」「完遂」といった意味で、品詞分類するなら名詞ということになる。

 

手元の小型国語辞典で「全う」を見てみると。

 

「まっとうする(全うする)」は「完全に(する)/果たす」「たもつ」意味の動詞として、名詞「まっとう」は「真っ当」という字を当てて「まとも」という意味を記述する(三省堂国語辞典7版)。

 

「真っ当」のほかに「全う」の表記、あるいは「全くの転か」とするものもある(新明解国語辞典7版、現代国語例解国語辞典5版、岩波国語辞典7版)。

 

しかしいずれも「まっとう」の意味としては「まとも、まじめ、実直」などで、「完遂」「やり遂げること」を挙げるものは見当たらない。

 

「○○する」という形の動詞、いわゆる「サ行変格活用(サ変)」動詞には「名詞+する」という形のものも多い。「全うする」が「果たす」という意味なのだから「全う」が「果たすこと=完遂」を意味すると解釈してもおかしくないような気がする。

 

ところが「全う」は形容詞「全(まった)し」の連用形ウ音便で、「名詞でない語+する」という形のサ変動詞。  類例で思い浮かぶのは「同じゅうする」「かたじけのうする」くらい。なかなかの変わり種だ。「同じゅう」とか「かたじけのう」を名詞として使うことはまずない。

 

国語辞典では名詞で「する」をつけてサ変動詞としても使う場合は名詞の形で見出しを立てる。「全う」ではなく「全うする」の形で見出しが立てているということは、今のところ「全うの意向」という用法を認めていないということだろう。

 

試みにネット上で、「"の全うを"」を検索してみると「社会的責任の全うを目指す○○(社名)」「責任の全うを心掛ける」といった例が見つかる。

 国立国語研究所の現代書き言葉コーパスから「まっとう」「全う」「完う」をキーワード検索してみると計700件程度がヒットするが、いずれも辞書にある「まっとうする」「真っ当=まとも」で、「やり遂げること」はないようだ。あるいは2000年代前半以降に出現した用法なのかもしれない。

 

 「真っ当」と書く名詞が先にあって、同音なので「全う」を名詞として使っても抵抗がなくなったということだろうか。