兵庫県球児の今年の漢字は「繋」

発表いたします。兵庫県の高校球児の選ぶ今年の漢字は「繋」でした。

 

といっても日本漢字検定協会の発表ではなく、清水寺貫主も揮毫しません。朝日新聞第2兵庫県版(6月9~26日付)に、高校野球東・西兵庫大会出場校のチーム紹介があり、それぞれの「チームの思いを象徴する漢字1字」が掲載されたのを集計してみたのです。

 

162チームが延べ86字種を挙げました。数の多い順に並べると次の通り。

「繋」                                              9校

「粘」                                              7校

「攻」「気」                                     6校

「恩」「翔」「頂」                            5校

「志」「勝」「一」「心」                   4校

「信」「変」「愛」「笑」「前」           3校

 

朝日新聞第2兵庫県版では、2017年も同じ方式のチーム紹介が掲載されました(6月9~27日付)。順位は次の通り。同じく162チームが延べ80字種を挙げました。

「挑」                                                                          16校

「気」                                                                          12校

「勝」「粘」「繋」                                                        6校

「笑」「勢」                                                                 5校

「咲」「恩」                                                                 4校

「昇」「信」「感」「魂」「心」「志」「考」「攻」「結」    3校

 

「挑む」「挑戦」や「気合」「気力」から、「繋ぐ」「粘る」へ、チーム気質に変化が見られるといえるのかどうか。

 

面白いと思ったのは去年も今年も「気」を、旧字の「氣」の形で挙げたチームが目立ったことです(去年は12校中6校、今年は6校中3校)。略字では表せない気持ちがこもっているのでしょうか。

 

なお兵庫県球児・2018年「最もユニークな漢字」賞は文句なく、相生高校に差し上げます。

なにしろ、「ビャン」ですから、「ビャン」。

分からないという向きは、「ビャンビャン麺」で画像検索してください。中国は陝西省名物の麺類の名前に使われる文字です。かの習近平主席の好物だとか。きしめんより幅広でイタリアンのパスタ・パッパルデッレみたいな麺で、日本でも最近は各地で食べられるようです。

 

相生高校が挙げた理由は「画数が多い漢字、いろんな文字が支えあいチームのように」とのこと。この画数の多い字を達者な明朝体デザインで表現しています。将来はフォントデザイナーを志望するのもあり、かもしれません。

 

毎日「危険な暑さ」が続きます。球児の皆さんも体に気を付けて。健闘を祈っています。

 

 

 

爆音

 

話題の「爆音映画祭」はうるさいの? 女ひとりでも楽しめるのか行ってみた結果…サイリウム、コスプレ、熱唱など未知の世界が広がっていました!!

                 「POUCH」2018年6月21日 百村モモ

 

 ネットで見つけた記事の見出し。「爆音映画祭」というのはライブ用の音響機材による大音響で映画を上映するんだそうな。

 辞書で「爆音」といえば「爆発の音、爆裂音」や「飛行機、自動車などの立てるやかましい音」というのが一般的。「爆音」=「大音響」というニュアンスではまだ記述されていないと思う。

 

新聞ではそれなりに見かけるようになった。


大編成の管弦楽が爆音で轟(とどろ)き、混声合唱マルクスエンゲルスのテキストを叫ぶ。

               2018年3月19日付朝日新聞東京本社版夕刊3面

            for your Collection クラシック音楽

 

エレキギターを爆音でバンドあるいはソロで展開することも並行して行っていた。

              2017年11月13日付朝日新聞東京本社版夕刊3面

                   「遠藤賢司さんを悼む」音楽評論家・湯浅学

 

オランダ・バッハ協会が、DJがホストを務めるシリーズ公演に出てマタイ受難曲の短縮版を演奏しました。DJの音楽が爆音で流れ、ピンクや青の照明の中登場して。

                     2017年9月9日付朝日新聞be3面

                      「フロントランナー 佐藤俊介さん」

 

その日、二十歳になったばかりの僕は人生で初めて音楽が爆音で流れるクラブという空間に行った。

                     2017年9月2日付朝日新聞be4面

                    「又吉直樹のいつか見る風景」代田橋界隈

 

朝日新聞ではこの1年で4件。だがまだ寄稿とかインタビュー(話し言葉)で、一般記事では見当たらない。

 

 初めて見かけたのはギターウルフというバンドの記事だったと思う。メモを残していないのが残念だが、2000年に「爆音」を含む題名の曲がある。

 それから、セカイノオワリの曲(2010年)の歌詞にも出てくる。

 三省堂主催の「今年の新語2015」に第9位で挙がっていた。でも2015年に急に見かけるようになったという記憶はない。

 

■■■追記(2018年11月5日)

 三省堂の「現代新国語辞典」第6版は採録していなかった。

 

 

 

 

 

火だるま

火だるまが飛びこんだ

                   2018年5月3日付朝日新聞オピニオン面

                             「ザ・コラム」駒野剛

 

米軍の飛行機が墜落して、一般住宅の茶の間にいた住民が被害にあった1977年の事故の記述。「地獄絵図」と筆者は言うが、火のついただるまさんがごろごろ転がっているマンガみたいな光景が思い浮かんでしまう。

 

■■■■

 

甘えるな。ずるい。自己責任だ。そんな毛羽立った言葉を耳にすることが増えた。

                  2018年5月3日付朝日新聞大阪本社版3面

                          「憲法を考える」真鍋弘樹

 

「毛羽立った言葉」。いやに文学的。

 

全うの意向

陛下 務め全うの意向

             2018年4月30日付朝日新聞大阪本社版1面の見出し

 

 

この場合、「全う」は「やり遂げること」「完遂」といった意味で、品詞分類するなら名詞ということになる。

 

手元の小型国語辞典で「全う」を見てみると。

 

「まっとうする(全うする)」は「完全に(する)/果たす」「たもつ」意味の動詞として、名詞「まっとう」は「真っ当」という字を当てて「まとも」という意味を記述する(三省堂国語辞典7版)。

 

「真っ当」のほかに「全う」の表記、あるいは「全くの転か」とするものもある(新明解国語辞典7版、現代国語例解国語辞典5版、岩波国語辞典7版)。

 

しかしいずれも「まっとう」の意味としては「まとも、まじめ、実直」などで、「完遂」「やり遂げること」を挙げるものは見当たらない。

 

「○○する」という形の動詞、いわゆる「サ行変格活用(サ変)」動詞には「名詞+する」という形のものも多い。「全うする」が「果たす」という意味なのだから「全う」が「果たすこと=完遂」を意味すると解釈してもおかしくないような気がする。

 

ところが「全う」は形容詞「全(まった)し」の連用形ウ音便で、「名詞でない語+する」という形のサ変動詞。  類例で思い浮かぶのは「同じゅうする」「かたじけのうする」くらい。なかなかの変わり種だ。「同じゅう」とか「かたじけのう」を名詞として使うことはまずない。

 

国語辞典では名詞で「する」をつけてサ変動詞としても使う場合は名詞の形で見出しを立てる。「全う」ではなく「全うする」の形で見出しが立てているということは、今のところ「全うの意向」という用法を認めていないということだろう。

 

試みにネット上で、「"の全うを"」を検索してみると「社会的責任の全うを目指す○○(社名)」「責任の全うを心掛ける」といった例が見つかる。

 国立国語研究所の現代書き言葉コーパスから「まっとう」「全う」「完う」をキーワード検索してみると計700件程度がヒットするが、いずれも辞書にある「まっとうする」「真っ当=まとも」で、「やり遂げること」はないようだ。あるいは2000年代前半以降に出現した用法なのかもしれない。

 

 「真っ当」と書く名詞が先にあって、同音なので「全う」を名詞として使っても抵抗がなくなったということだろうか。